2015/02/06

末期ガン社長に厳しい要求 ドライバーがユニオン駆け込む

我が子のように接してきたつもりだったドライバーに裏切られた。昨年、トヨタスチールの

下請けとして、名古屋市で鋼材輸送を手掛けてきたI商店で起こった出来事は、決して他

人事ではなく、自身に降りかかる恐れもある現実だ。

 

74歳のI社長が病院からガンと診断されたのは昨年の夏のことだった。診断によると、

ガンはすでに末期で手の施しようがなく余命いくばくもないという。そうしたことからI社

長は10月末で会社を整理することを決断。仕事とトラックと従業員を元請だった中堅

運送会社に引き取ってもらう段取りを整え、その旨をドライバーに伝えた。

それからほどなくして、一通の手紙が届く。送り主は愛知県内のある地域ユニオンだっ

た。手紙は従業員解雇についての協議と未払い賃金の支払いを求め、団体交渉を

申し込むという内容だった。I社長が従業員に事情を説明し解雇を予告した直後に、2

名のドライバーがユニオンに加入したのだ。

 同ユニオンは、「会社を整理する10月末までに、団交を行わないことは不当労働行為

とみなす」と要求してきた。I社長は治療等で忙しく10月中の交渉は困難で11月15日に

延期するよう申し出るが、「組合員はあなたが9月末時点でも元気に喫茶店に出かける

姿を目にしている。本当に末期ガンなら延期しても事情は変わらないはずだ」と迫る。

そして、延期するのであれば、組合員に対して有給休暇の残日数について1日17000

円で買い取ること、そして、10月31日に座に適的に離職票を発行して離職手続きを行う

こと、退職金は1年につき10万円であることを確認すること、そのうえで解雇の是非につ

いて団交で改めて協議すること、の4点を確約するよう求めてきた。

これについても、治療で忙しいことを理由にI社長は即答を避けた。何より、ドライバーが

手のひらを返すようにユニオンに加入したことがショックだった。もともとドライバーを我

が子のようにかわいがってきたつもりだった。他社と比べても決して引けを取らない毎月

40万円以上の給料を支払ってきた。また、ドライバーの妻や子どもの誕生日にはお小遣

いも渡すなど、家族同様に接してきた。しかし、法律に疎かったのも事実で、給与明細に

は時間外の項目はなく、穴だらけだった。

結局、2人の組合員については1人あたり375万円を支払うことで和解が成立。残る5人

のドライバーには、退職金に“解決金”を上乗せする形で納得してもらい、話がまとまった。

その後、10月末をもって廃業。それからほどなくした12月3日にI社長はこの世を去った。

企業の枠を超えて労働者を組織する地域ユニオンは、比較的大きな企業の正社員が加入

する社内労働組合とは違い、一人でも加入できるため、社内労組のない中小企業の従業

員や増加傾向にある非正規労働者が、解雇や賃金未払いなどの不当性を訴えようと利用

する事例が多い。近年の特徴は解決金の少額化で、一人の案件は十万~数十万円程度。

弁護士事務所などは敬遠しがちな案件がほとんどだという。

I社長夫人は、家族と思ってきたドライバーの一連の対応と、ガンであることすら疑い厳しい

要求を突き付けてきた従業員とユニオンの対応について「ただ悔しいの一言です」と涙なが

らに話した。

 

2015.1.14